プラチナ投資をご存知でしょうか?
金(ゴールド)投資なら何となく聞いたことがあるかもしれませんが、実はプラチナにも投資ができるのです。
現在、プラチナの価格が低迷しています。
最近調子の良い金(ゴールド)とは違い、価格がほぼ底をついたまま推移している状況です。
(出典:日本マテリアル)
昔は金よりも高かったのですが、いまや金の半分近くの価値になってしまいました。
安く買って高く売るという投資の大原則からすると、一見買い時のように思えるかもしれませんが、実際のところはどうなのでしょうか。
今回はそんなプラチナ投資について、価格が下がった原因から将来の見通しまで、徹底的に分析していきたいと思います。

■目次
プラチナの価格が下がった原因

まずは、プラチナの価格が下がってしまった原因を見ていきましょう。
ディーゼル車の販売不振(触媒需要の低下)
現在プラチナの価格が下がった原因ですが、まずはヨーロッパにおけるディーゼル自動車の販売不振があげられます。
なぜディーゼル車の販売不振がプラチナの価格低下に繋がるかというと、ディーゼル車の排気ガスの浄化装置に「触媒」としてプラチナが利用されているからです。
つまり、ディーゼル車の需要がなくなると、プラチナの需要もなくなることになるので、それが価格低下につながったのです。
きっかけとなったのは2015年、フォルクスワーゲン社の排ガス不正事件。
厳しい排ガス規制を免れるため、フォルクスワーゲン社が不正なソフトウェアを使い、ディーゼル車の排ガス排出量をごまかしていた事件です。
この事件をきっかけに、ヨーロッパにおけるディーゼル車へのイメージがダウンし、その代わりにガソリン車へとトレンドが変化していきました。
ガソリン車の排ガス浄化装置に使われている触媒は、プラチナではなくパラジウムです。
そのため、プラチナの価格は下がり、反対にパラジウムの価格が高騰していきました。
世界で販売されるディーゼル車の約80%がヨーロッパ市場なので、ヨーロッパにおけるディーゼル車の販売不振はプラチナ価格に大きな影響を及ぼしました。

そのため、ディーゼル車の販売不振の影響も大きかったのです。
日清紡の新技術の発表
2017年、日清紡が新技術を発表しました。
内容は、カーボン製電極の燃料電池の開発です。
なぜ、カーボン製電極の燃料電池がプラチナ価格に影響するかというと、燃料電池の電極にもプラチナが使われているからです。
次世代自動車として注目されている「燃料電池自動車(FCV)」の燃料電池には、電極としてプラチナが使用されており、新たなプラチナのマーケットとして期待されていました。
しかし、日清紡の新技術はプラチナの代わりにカーボンを使用する電極だったのです。
燃料電池自動社(FCV)に限らず、他の次世代自動車においても共通の課題はコストです。
プラチナから比較的安価なカーボンへ素材が変更できればコストカットが見込めるので、各社がこの技術の導入を進めていくことが予想できます。
そうなるとやはりプラチナの需要が失われることになるので、この新技術の発表によって、プラチナの価格がさらに低下することになりました。
そして需要バランスが変わった
(出典:ジョンソン・マッセイ PGM市場レポート2019 )
プラチナの価格低下は、これまでに挙げた要因以外にも、南アフリカランド(南アフリカの通貨)の価格低下や、米国金利の影響(米国金利が高いので、投資家的にはドルを持っていた方がおいしい。つまり、プラチナを手放す)など、複数の要因も重なったと言われています。
そういった状況で投資家が離れて行った結果、2017年から需要を供給が上回りました。
年々リサイクル量も増えてきているので、これも需要バランスを逆転させた一因といえるでしょう。
ここまでをまとめると、
- 将来の自動車関連の需要が見込めず、
- リサイクル量も増えており、
- 現時点ですでに供給過多
というのがプラチナの現状です。

プラチナの未来はどうなる?

これまで述べてきた内容だけみると、先行きは暗いとしか思えないプラチナ投資ですが、本当にそうなのでしょうか?
ここからは、もう少し詳しくプラチナの現状について解説していきながら、将来の見通しについて述べていきたいと思います。
プラチナの需要を細分化してみる
(データ出典:ジョンソン・マッセイ PGM市場レポート2018、2019)
上のグラフは分野別に需要の推移を示したものです。
自動車、宝飾品、投資は下がってますが、実は産業分野だけ伸びていることがわかります。
また、自動車については先に述べたとおり触媒としての需要減が原因ですが、宝飾品はなぜ減少しているのでしょうか?
それぞれ順番に見ていきましょう。
宝飾品は中国での需要減が原因
結論から言うと、宝飾品の需要減は中国の影響が大きいためです。
経済成長に伴う晩婚化、アクセサリーのトレンド変化に伴うプラチナ需要減が主な要因です。
ひとりっ子政策で少子化が進んだ中国で晩婚化が進むということは、アクセサリー需要への影響は大きいでしょうし、需要の回復もあまり見込めません。
トレンドの変化については何とも言えませんが、またすぐにプラチナへトレンドが戻るとは考えにくいので、こちらも回復はあまり見込めません。
というわけで、宝飾品の需要は今後も下がっていくと思われます。
ただ、インドなどの人口が爆増している新興国において、うっかりプラチナが流行ってしまうと話は変わってくるかもしれません。(今のところは無さそうです)
産業分野は複数領域で伸びている
(出典:ジョンソン・マッセイ PGM市場レポート2019 )
※触媒としての利用は自動車に含まれているので、産業分野ではありません
産業分野においては全体的に増加傾向ですが、「化学」「電子材」「ガラス」「石油」の分野で伸びていますね。
それぞれ順番に解説します。
化学
主に中国における特殊シリコーンの需要拡大と、世界的に硫酸の消費量が増加したことが影響しているようです。
特殊シリコーンの製造過程でもプラチナが触媒として使用されているのですが、どうやら一度使った触媒は回収されないらしく、シリコーンを生産するほどプラチナも消費されるようです。
また、硫酸の製造にもプラチナが触媒として必要であり、製造過程で減耗することもあるため、徐々に需要が増加しているようです。
電子機器
主にPCのパーツであるHDD(ハードディスクドライブ)と、燃料電池の需要増加が影響しているようです。
HDDについては生産量は減少しているものの、まだまだ事業者からの需要はあるらしく、SSDと比べてもコスパが良いため需要が回復したようです。
燃料電池については、中国が燃料電池自動車の開発・推進に力を入れており、その影響で高まっているようです。
中国は燃料電池自動車の先進国を目指しており、燃料電池自動車には補助金を支給していることもあり、需要が拡大傾向にあります。
大きなマーケットである中国が力を入れていることもあり、今後も電子機器分野では需要増が期待できそうです。
ガラス
「グラスファイバー」と呼ばれる繊維の需要が高まっていることと、中国における次世代液晶ディスプレイ用の「ガラス基板の生産設備のためのプラチナの需要」が伸びているようです。
グラスファイバーは、次世代自動車の材料として需要が高まってきており、今後も需要の増加が見込めます。
ただ、プラチナは生産設備の溶鉱炉に使用されているので、影響は一時的かもしれません。
石油
中国をはじめ、世界中で石油化学コンビナート建設のためにプラチナが購入されたようです。
特にポリエステルの原料になるパラキシレンの製造設備を中国が整えたことが大きいようです。
中国ではポリエステルの需要が急激に伸びており、今後も設備投資は続きそうなので、まだまだ需要が続きそうです。
というわけで産業分野は全体的に伸びています。
伸び幅としては宝飾品の減少具合を相殺できるくらいなので、今後のプラチナの需給バランスは自動車分野がキーになってきそうです。
自動車
自動車分野では、すでに述べた通りディーゼル車の低迷に伴い需要が減少しています。
自動車のトレンドは徐々に次世代自動車へとシフトしているので、このまま下がっていく一方かと思いきや、そうではないかもしれません。
長い目でみれば下がっていくとは思いますが、一時的に回復する可能性があります。
2020年のインド排ガス規制強化
2020年にインドで排ガス規制が強まります。
この規制は厳しく、すでに流通しているディーゼル車も規制対象になるので、規制を免れるために浄化装置を強化する必要が出てきます。
浄化装置の強化にはプラチナも必要になるので、既存のディーゼル車改修用にプラチナの需要が高まる可能性があり、一時的に需要が回復するかもしれません。
パラジウム価格の高騰
世界で生産されている自動車の大半はガソリン車です。
ガソリン車の触媒にはパラジウムが使われていますが、現在のパラジウム価格はプラチナの2倍を超えています。
このままこの状況が続くようであれば、各社はコスト削減のために触媒のプラチナ比率を高める可能性があり、そうなった場合はプラチナの需要回復が見込めます。
とはいえ、プラチナ比率を上げるためには生産設備を整える必要もあるので、そんなにすぐは需要回復はしないと思いますが、じわじわと回復してくる可能性はあると思います。

懸念点
ここまではポジティブなことを書いてきましたが、もちろんネガティブなこともあります。
それは以下の2つです。
- リサイクル量の上昇
- 代替品の登場
こちらも順番に見ていきましょう。
リサイクル量の上昇
(データ出典:ジョンソン・マッセイ PGM市場レポート2018、2019)
先に述べたとおり、年々リサイクル率は上昇しています。
このまま上昇が続くと、仮に産業分野などで新たな需要が生まれたとしても、それをカバーできるくらいのリサイクル量が供給されるかもしれません。
プラチナは2050年頃に埋蔵量がなくなると言われているので、2050年に向けてリサイクルのトレンドは強くなっていくと思います。
プラチナのリサイクルについては情報が少ないのですが、無視できないほど大きなボリュームになってきているので、今後の動向にも目が離せません。

代替品の登場
次は代替品の登場です。
「触媒ではパラジウム」「燃料電池ではカーボン」といったように、プラチナには代替できるものがあります。
目下で注意すべきなものは「カーボン製電極の燃料電池」。
現時点ではまだ小型らしく、商用利用できる段階ではないらしいのですが、これが燃料電池自動車で使われるようになったら間違いなくプラチナの価格は低下するでしょう。
また、もともとプラチナは金よりも希少性が高い高価な貴金属です。
代替できる素材が見つかればコストダウンになり、そしてそれは新たなビジネスチャンスになります。
そのため、今後も触媒や燃料電池以外でも、プラチナの代わりになる技術や素材が開発されるかもしれません。
2050年頃に埋蔵量がなくなると言われていますし、代替品や代替技術の開発は進むことが予想できます。
プラチナ投資はするべきか?

長々と書いて来ましたが、僕の結論としては
- 価格は下がりきった状態ではあるが、
- 将来価格が上がるかどうかは不透明
だと考えているので、積極的にプラチナ投資は推奨しません。
金(ゴールド)は安全資産としての側面が強いのに比べ、プラチナは産業需要が強いため、金よりも安全資産としての側面が弱いです。
価格が下がっているいまなら安全資産として買っても良いかもしれませんが、代替品や代替技術などの発明で長期で保有していても産業需要がなくなる可能性があるので、長期でさらに価格が下がる可能性もあると思います。
とはいえ、直近では排ガス規制による触媒需要、燃料電池自動車の普及に伴う需要増加には期待できるので、興味本位でなら買ってみてもいいかもしれません。
いずれにせよ、自信を持って推奨はできません。
以上、プラチナの投資の将来性についてでした。
